シリーズ労災保険③ このケガ労災使える?~事例集~

今回は、「このケガ労災使える?事例集」というテーマで、労災保険が適用となるケースとならケースの事例をご紹介したいと思います。

前回のブログで仕事中のケガで労災保険が使える2つの条件、業務遂行性と業務起因性についてご説明しました。

業務遂行性と業務起因性は、労災保険にとって非常に重要なポイントとなりますが、なかなか分かりづらいところでありますので、今回は事例をいくつかご紹介しながら、業務遂行性と業務起因性についてよりご理解を深めていただきたいと思います。

業務遂行性と業務起因性について

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最初に簡単に前回のブログの復習をしたいと思います。

労災保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷等に対して必要な保険給付を行う制度で、業務上の事由、つまり仕事中の事故等で労働者が負傷等を負い、労災保険が適用となる事故のことを業務災害と呼びます。

ですから、労災保険を使うことができるのは、労働者が負傷等を負った原因となる事故が、業務災害であるということが必要となります。

ちなみに、通勤途上の事故等によって労働者が負傷等を負い、労災保険が適用となる事故のことを通勤災害と言います。

そして、業務災害として認められるために、業務遂行性と業務起因性の2つが認められる必要があります。

前回のブログでもご説明していますが、この業務遂行性と業務起因性の関係ですが、業務災害と認められるには、ます業務遂行性が認められることが前提となります。

そして、その上で業務起因性があるかないかを考えることとなります。

つまり、業務遂行性は認められるが、業務起因性は認められないというケースは出てきますが、業務起因性は認められるけど、業務遂行性は認められないというケースは、絶対に発生しないこととなりますので、この関係は、是非覚えておいていただければと思います。

業務災害事例集

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では、これから業務災害の事例をいくつかご紹介していきますが、労災保険を使えるかどうか、業務災害と認められるかどうかの判断は、今ご説明しましたように、まず業務遂行性の有無を考えていくこととなります。

最初に3つ原則的な業務遂行性、業務起因性の考え方に該当すると思われる事例をご紹介していきたいと思います。

ラーメン店で、スライサーでケガをした

ラーメン店で労働者が、ラーメンを厨房で作っていて、チャーシューを切るスライサーを使っている時に、手元を誤ってしまい、手がスライサーの刃に当たってしまって、ケガをしてしまったという事故をまず考えてみたいと思います。

まず先程もご説明したように、最初に業務遂行性の有無を考えたいと思います。

ラーメン店でチャーシューを切るという行為は、当然業務の一つとなります。

話が前後してしまうのですが、業務遂行性の基本的な考え方は、被災労働者が労働契約に基づいて、使用者の指示、命令に従い支配下にある状態の時に業務遂行性が認められます。

チャーシューを切るという行為は、ラーメン店においては、労働契約に基づいて使用者の指示、命令に従って行われているわけですから、当然使用者の支配下にある状態と言えます。

ですから、ラーメン店で労働者が、ラーメンを厨房で作っていて、チャーシューを切るスライサーを使っている時に、手元を誤ってしまい、手がスライサーの刃に当たってしまって、ケガをするという事故おいては、当然業務遂行性が、認められることとなります。

次に業務起因性の有無について考えたいと思います。

業務起因性の基本的な考え方は、負傷等が業務に起因して生じたものを言います。

チャーシューをスライサーで切る、そしてケガを負う、これはまさに業務に起因して起きています。

業務としてチャーシューを切っているわけです、当然業務起因性が認められる形となります。

ですから、今回の事例では、業務遂行性も業務起因性もどちらも認められますので、労災保険が適用される形となります。

ところで、ケガの場合において、業務起因性を考える際に、偶発的や突発的、不意にといった要因が加味される場合が多いです。

例えば、今回の事例のように、チャーシューをスライサーで切っている際にケガをするのは、不意に手元が狂うケースが多いかと思います。

偶発的や突発的、不意にといった要因は、業務起因性の有無を判断する上で、重要なキーワードとなってきますので、ここは是非覚えておいていただければと思います。

スーパーマーケットの店内で電球の取り替え中にケガをした

では、次の事例を考えてみたいと思います。

今度は、スーパーマーケットの店内で、労働者が脚立に乗って、店内の照明器具を替えている時に、脚立の安全ストッパーが外れてしまい、脚立が倒れてしまって、それに伴って労働者も地面に落ちて腰の骨を折ってしまったという事故について考えてみたいと思います。

先程と同じように、最初に業務遂行性の有無について考えたいと思います。

スーパーマーケットの店内で照明器具を取り替えるという行為は、使用者の指示、命令に従って行われる、と考えるのが一般的です。

たとえ、直接的な指示、命令がなくても、電球が切れたままでは業務に支障が出るので、形は労働者が自発的に電球の取り替えを行ったとしても、そこには間接的、暗黙的に使用者の指示、命令があったと考えられます。

ですから、使用者の支配下にある状態と言え、業務遂行性が、認められる形となります。

次に業務起因性について考えたいと思います

業務起因性の基本的な考え方は、負傷等の原因となる事故が業務に起因して生じたものとなります。

今回の事例では、労働者は、通常に照明器具を替えていたため、業務自体が負傷の原因になったわけではありません。

事故の原因は、あくまでも脚立の安全ストッパーに不具合があったためです。

となると、今回の事例は、事故の原因が業務そのものではないため、業務起因性は認められないこととなりますが、労災保険では、業務起因性について、もう少し範囲を広く考えています。

労災保険では、今回の事例のように、負傷等の原因となる事故が事業場の施設、設備に関係して発生した場合も、業務起因性があるとされています。

今回の事例は、まさにこれに該当します。

脚立は、スーパーマーケットに備え付けてある設備ですので、その脚立が原因で事故が起こったわけですから、今回の事例も業務起因性が認められることとなります。

従って、今回の事例も、業務遂行性及び業務起因性のどちらも有しているため、負傷の原因となった事故は、業務災害となりますので、労災保険が適用されることとなります。

テレワーク中にパソコンを修理する際に火傷を負った

では、次にテレワークで在宅勤務をしている労働者が、業務で使うパソコンを修理していた時に、電気ショートを起こしてしまい、火傷を負ってしまったという事例を考えてみたいと思います。

では、まず業務遂行性について考えてみたいと思います。

テレワークというのは、自宅あるいはサテライトオフィスなど、会社以外の場所で働く労働形態のことを言います。

新型コロナウイルス感染拡大により、多くの企業がテレワークの導入を余儀なくされています。

テレマークは、先程も言いましたように、自宅やサテライトオフィスといった会社以外の場所で働くわけですが、テレワークを指示するのは、当然使用者です。

労働者は、使用者の指示、命令に従ってテレワークを行っているわけです。

ですから、今回の事例のように、たとえ自宅で業務を行っている場合であったとしても、使用者の支配下にある状態となりますので、業務遂行性が、認められることとなります。

次に業務起因性について考えてみたいと思います。

業務起因性は、負傷等の原因となる事故が、業務に起因して生じた場合に、認められますので、業務で使うパソコンを修理するという行為は、当然業務です。

その業務が原因で火傷をしたとなれば、負傷等の原因となる事故は、業務に起因して生じたものとなりますので、業務起因性も認められます。

従って、今回の事例も業務遂行性及び業務起因性が認められますので、業務災害となり、労災保険が適用されることとなります。

テレワーク、特に在宅勤務について、経営者の方は、自宅で仕事をしていてケガをする、というと、会社内でケガをする場合と少し雰囲気が違う、自宅でケガをした場合には、労災保険は適用にならないのでは、と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、自宅で仕事をするというのは、あくまでも使用者の指示、命令に従って行われているわけですから、これは単純に働く場所が自宅であるだけで、会社と全く同じ状況と考えていただければ結構です。

特にテレワークに関して、この点には、注意していただければと思います。

これは少し余談となってしまいますが、労災保険以外の労働基準法等の法律でも、たとえテレワークであったとしても、基本的には、通常会社で勤務している場合と全く同じ考え方をします。

例えば、在宅勤務で仕事をしている労働者であったとしても、当然休憩時間は、必要な時間を与える必要がありますし、法定労働時間を超えて労働させたら、割増賃金の支払いが必要となります。

テレワークだからと言って、労働者に何か特別な法律が適用されるわけではありません。

テレワークであったとしても、会社で勤務している労働者と法律の適用は全く同じとなりますのでご注意下さい。

チラシを配っている最中に、暴行されてケガをしてしまった

今ご紹介した3つの事例は、業務遂行性と業務起因性の基本的な考え方に沿った事例でしたので、比較的わかりやすかったかと思います。

では次に、これから業務遂行性と業務起因性の判断に少し頭を悩ます事例について、ご紹介していきたいと思います

自社のチラシを駅前で配っていた労働者が、通りかかった第3者、何者かによって暴行を受けてケガをしてしまったケースについて考えてみたいと思います。

自社のチラシを配る行為は、使用者の指示、命令に従い行われるわけですから、当然使用者の支配下にある状態と言えますので、業務遂行性は、認められる形となります。

今回の事故の場合は、負傷した原因は、通りかかった第3者から受けた暴行となりますが、チラシを配っている行為が、元々の原因と考えられます。

通りかかった第3者は、その労働者がチラシを配っていることについて不快に思ったか、何を思ったか分からないにしても、その労働者は、少なくともチラシを配っていなければ暴行を受けることはなかったわけですから、暴行を受けた原因は、業務が起因していると考えられます。

従って、このケースにおいても、業務起因性が認められるかと思います。

しかし、この第3者が、実は労働者と顔見知りであって、その暴行を受けた理由が、その第3者との間に存在したトラブルが原因であった場合には、暴行を受けた理由が、個人的な理由となってきます、前回のブログでも、業務起因性が認められないケースとして、勤務時間中であったとしても労働者同士の私的なケンカの場合には、業務起因性は認められないということをご説明しているのですが、まさしくこれと同じ考え方です。

例えば、その労働者と第3者との間で金銭的な問題やあるいは女性関係党のトラブルがあったために、それが原因で、第3者がその労働者を殴った、暴行をしたとなれば、これは私的なケンカとなりますので、業務起因性は認められないこととなります。

従ってこのようなケースで、殴られた行為が、私的な理由以外のことであれば、基本的には業務起因性が認められると考えられるかと思います。

パンクの修理を手伝っている最中にケガをしてしまった

では次に、運送会社で荷物を運送中の労働者が、たまたま通りかかった所で、取引先の労働者が、車のパンクの修理をしていて、その労働者は、気の毒に思い、パンクの修理を手伝っていた最中に、ジャッキが外れてしまって、地面と車のボディとの間に、手が挟まってしまいケガをしてしまったケースについて考えてみたいと思います。

業務遂行性の基本的な考え方は、労働契約に基づいて使用者の指示、命令に従い、使用者の支配下にある状態を言います。

取引先の会社の車両のパンクの修理を手伝うという行為は、通常は、そのような指示、命令が、使用者から出されることはありません。

取引先の会社の車両のパンクの修理を手伝うという行為は、あくまでも労働者本人の個人的な考えでパンクの修理を手伝っている形となります。

ですから、今回のケースは、基本的には、使用者の指示、命令に従って、使用者の支配下にある状態とは言えないとなります。

従って、業務遂行性は認められないと考えられます。

しかし、取引先の労働者が、車がパンクして困っているのは、無視してしまう行為も、今後の取引先との関係を考えれば、好ましいことではないとも言えます。

また、業務を行うには、取引先との関係を良好に保つのは必然でありますので、会社が、敢えて直接指示、命令は出さなくても、労働者が、取引先との関係を良好に保つ行為は、暗黙の指示、命令があるとも言えます。

ですから、今回のケースは、取引先との関係を良好に保つという視点から見れば、業務遂行性があると考えられる余地はあるかと思います。

このようなケースでは、事故にいたるまでの状況や取引先との関係の深さ等を考慮して、ケースごとに判断されることになるかと思います。

休憩時間中にキャッチボールをしていたらケガをしてしまった

今度は休憩時間に関係する事例をご紹介したいと思います。

昼休みに会社の屋上でキャッチボールをしていて、たまたま球を取り損ねて、ボールが顔に当たってケガをしてしまったケースを考えたいと思います。

まず業務遂行性を考えてみたいと思います。

繰り返しになりますが、業務遂行性の基本的な考え方は、使用者の支配下にある状態を言います。

休憩時間に関しては、労働基準法で、労働者には自由利用が認められているので、休憩時間中は、労働者は、使用者の支配下にはないとされています。

しかし、休憩時間は、労働時間と密接な関係があるために、労災保険では、休憩時間についても、一定の場合業務遂行性を認めています。

まず労災保険では、休憩時間中であっても、事業場内での行動には、業務遂行性を認めています。

会社の屋上というのは、事業場内と考えられますので、休憩時間に会社の屋上でキャッチボールをする行為は、業務遂行性が認められることとなります。

問題は、業務起因性です。

キャッチボールをするという行為は、 労働者の私的行為となります。

当然、業務にはなりません。

業務起因性の基本的な考え方である、ケガが業務に起因して生じたものではありません。

また、業務起因性は、会社の施設、設備が原因で生じた事故においても、業務起因性を認めていますが、キャッチボール自体は、何か施設や設備を使うわけではありませんので、今回の事例の場合は、業務起因性は認められない形となります。

ところで、休憩時間に関しては、もともと労働時間ではありませんので、休憩時間に業務を行うということはあり得なわけです。

ですから、休憩時間中の事故で、業務起因性が考えられるのは、基本的には、ケガ等が会社の施設、設備に関係している場合に限られることとなります。

では、それを前提に次の事例を考えてみたいと思います。

休憩時間中自分のまかないを作っている時にケガをしてしまった

ラーメン店で労働者が休憩時間中に自分の食事、まかないのラーメンを作るためにチャーシューをスライサーで切っていた時、不注意でケガをしてしまった、このようなケースを考えてみたいと思います。

先程もご説明しましたが、休憩時間においては、事業場内での行動は、業務遂行性が基本的に認められますので、ラーメン店の店内で自分のラーメンを作る行為は、業務遂行性が認められる可能性が高いと言えます。

しかし、今回の事例ですと、設備であるスライサーに特別問題があったわけではありません。

事故の原因は、あくまでも労働者の不注意となります。

同じスライサイーによる事故でも、業務中であればケが業務に起因したこととなりますので、業務起因性が認められますが、先程ご説明したように、休憩時間中の事故で、業務起因性が考えられるのは、基本的には、ケガ等が会社の施設、設備に関係している場合に限られることとなりますので、もしスライサーに特段の瑕疵が無いのであれば、事故の原因が、会社の施設、設備に関係がないこととなりますので、今回の事例は、基本的には業務起因性は、認められない可能性が高くなります。

ただし、この事例に関して、実はいくつかの労働基準監督署に確認をしたのですけど、監督官によっては、あくまでも設備を使っているわけだから、業務起因性が認められる可能性はあるのではないかと言う監督官もいたのですが、基本的には食事をするという行為は、私的行為であるわけだから、事故の原因が会社の設備、 施設に関係がないのであれば、基本的には業務起因性が認められないのではないかと答える監督官の方が多かったし、 個人的にも業務起因性は認められないのではないかと思います。

近くのレストラン内で転んでケガをしてしまった

では、もう1つ休憩時間の事例をご紹介したいと思います。

会社内で仕事をしている労働者が、休憩時間中にお昼を食べに近くのレストランに行き、そのレストランの床がたまたま濡れていて、そこで足を滑らせて転んでしまってケガをしてしまったこのような場合に、労災保険が適用となるかどうか ということなのですが、まず業務遂行性について考えたいと思います。

先程もご説明しましたように、休憩時間の場合、会社内の行動の場合は、業務遂行性が認められます。

しかし、会社外の行動でも一定の場合は、業務遂行性が認められるとされています。

問題は、この一定の場合はどういう場合かというのかですが、例えば、営業社員や運送業の配送を業務にしている労働者のように、使用者の指示、命令に従って会社の外で仕事をしている労働者が、会社外で休憩する場合などが、一定の場合に該当します。

ですから、営業社員が、営業回りの途中でお昼を食べるためにレストランに入り、そのレストラン内で足を滑らしてケガをしてしまう場合であれば、会社外にいる行為は、使用者の指示、命令に従って行われていますので、たとえ休憩時間中に会社外でケガをした場合でも、業務遂行性は認められる形となってきます。

しかし、今回の事例では、ケガをした労働者が、業務をする場所は会社内です。

昼食を食べに会社の外に出る行為は、使用者の指示、命令に従って行われたわけではありませんので、労働者の個人的な行動となってきます。

従って、会社内で仕事をしている労働者が、休憩時間中に会社の外に出ている時に起きた事故については、基本的には、業務遂行性は認められないこととなります。

ところで、全ての労働者がお弁当を持参できるわけではありませんし、全ての会社が、社員食堂を有しているわけではありませんので、労働者によっては、どうしても昼食を食べるために、会社の外に出なければいけないケースも出てきます。

しかも、昼食を食べるという行為は、業務を行うためには、当然必要な行為となってきます。

ですから、ここはある程度例外的な考えがあるのではないかなと思って、労働基準監督署に確認をしたのですが、基本的にそのような例外的な考え方はないということです。

従って、会社内に勤務している労働者が、休憩時間中にコンビニに昼食を買いに行ったり、近くのレストランに昼食を食べにいったりと、会社の外に出ている間に起きた事故に関しては、基本的に業務遂行性は認められない形となりますので、ここはご注意していただければと思います。

休日開催の会社の野球大会でケガをしてしまった

では、次に休日に会社の野球大会があって、デッドボール受けて負傷してしまったケースを考えてみたいと思います。

このように、休日に会社の行事が行われて、その最中にケガを負ってしまった場合には、問題となるのは、業務遂行性の有無です。

今回の事例の場合、ケガの原因は、デッドボールと因果関係がはっきりとしているため、もし野球大会が業務であれば、業務起因性は認められることとなります。

従って、休日に行われた会社の行事が、業務なのかがポイントとなってきます。

今回の事例では、野球大会が、業務の一環として行われたと認められれば、業務遂行性が認められる形となります。

ポイントとなる点は、まずその野球大会への参加が、強制かどうかというところです。

そして、賃金あるいはそれ相応の手当が支給されているかこのようなところもポイントとなります。

もし参加が強制されていて、賃金あるいはそれ相応の手当が支給されるのであれば、これは通常の業務となります。

使用者の指示、命令に従って野球大会が行われている形となりますので、その最中の事故であれば、当然業務遂行性は、認められることとなります。

しかし、それに対して参加も自由参加だし、何の手当も支給されない、お弁当ぐらいしか出されないのであれば、これは業務とは言えない、使用者の指示、命令に従って行われているものとは言えないので、その最中にケガをした場合には、業務遂行性は認められないこととなります。

ところで、野球大会への参加は強制だったけど、賃金が支払われないケースも考えられます。

このようなケースの場合には、これは個人的な考え方なのですが、もし参加が強制されているのであれば、業務として見るのが妥当ではないかなと思います。

というのは、参加が強制されていながらも、欠席した場合には、人事評価にも影響が出るというように、今後の業務に何らかの影響が出る可能性が十分考えられ、間接的ではあれ、使用者の指示、命令が出されていると言えるかと思います。

従って、参加が強制されていて賃金が支給されていない場合であったとしても、基本的に業務遂行性は認められる可能性が高いと言えます。

ただし、その場合、賃金が支給されないのであれば、賃金不払いの問題が、別の次元の話として出てくると言えます。

労災保険全般にそうですが、業務遂行性あるいは業務起因性の有無の判断は、1つの要因だけで判断するわけではなくて、総合的に判断されますので、野球大会への参加は強制で、賃金が支払われないケースでも、業務遂行性が認められない場合も当然出てくるかと思います。

業務災害に対する実務的な考え方

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今回の、ブログでは、業務遂行性及び業務起因性の有無について、事例をいくつかご紹介しました。

業務遂行性及び業務起因性の有無は、様々な要因を総合的に判断して決定する形となります。

今回ご紹介した事例で、最初の3つの事例は、業務遂行性及び業務起因性の基本的な考えに沿った事例ですので、比較的分かりやすいかと思います。

しかし、それ以降にご紹介した事例、例えば、休日の野球大会の事例などは、業務遂行性の有無の判断に迷う、非常に難しいケースと言えます。

また、今回ご紹介した事例の中で、運送業の労働者が、取引先の会社の労働者が、車両のパンクを修理している時に、手伝ってケガをしたという事例がありましたが、ご説明したように、パンク修理の手伝いは、使用者の指揮、命令に従って行われるわけではないので、基本的には業務遂行性は認められません。

実際インターネット等でも、このような事例についての解説でも、業務遂行性は認められないと書かれているもがほとんどなのですが、もし経営者が、常々「取引先には親切にするように」あるいは「困った時には助けてあげて下さい」というようなことを口にしていたら、これは直接ではないにしても、使用者の暗黙的な指示、命令があったと言えるのではないか と思いました。

実際に、労働基準監督署に確認しましたら、「確かにそのような考えもありえます。」という回答でした。

つまり、同じようなケースでも、業務遂行性及び業務起因性は、ケースによって認められる 場合もあれば、認められない場合も出てきます。

そのため、実際に事故が起きてしまった時に、経営者の方は、労災保険が使えるのかどうか悩まれるかと思います。

そのような場合には、申請を出してみて下されば結構です。

労働基準監督署に、労災保険が適用になるかどうかを相談しに行っても、基本的には申請を上げてくれなければ答えないというスタンスです。

逆に言えば、申請さえすれば、後は、労働基準監督署が判断する形となります。

ここで1つ是非覚えておいていただきたいのですが、もし労災保険を申請して、労災保険が適用にならなかった場合でも、ただ単に労災保険が、適用にならなかっただけです。

申請をしたこと自体に、何らかのペナルティが課せられることや、何らかの責任を取らされることは全くありませんので、労災保険の適用となるか迷ったら、とりあえず申請を出していただければ宜しいかと思います。


まとめ

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今回は、業務災害となるかならないか、つまり業務遂行性と業務起因性の有無についての事例をいくつかご紹介しました。

事例で考えると、業務遂行性、業務起因性について理解がしやすいかと思います。

しかし、ブログの中でもご説明したように、同じようなケースでも、業務遂行性及び業務起因性は、ケースによって認められる 場合もあれば、認められない場合も出てきます。

ですから、労災保険が使えるのかどうか迷った場合には、とりあえず申請を出してみれば良いかと思います。

もし労災保険を申請して、労災保険が適用にならなかった場合でも、申請をしたこと自体に、何らかのペナルティが課せられることや、何らかの責任を取らされることは全くありません。

このことを知っておけば、労災保険の実務に関して、経営者の方の負担は、かなり軽減されるかと思いますので、是非ご参考になさって下さい。

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